路地裏

あらゆるどうでもいいことを書きます。

ねこ

 うちには猫が二匹いる。母親が拾ってきた元野良猫・ももと、一匹じゃさみしいかもと思ってもらってきた猫・くり。二匹とも女の子。人間の妹も含めて厄介な妹たちである。

 とはいえ猫は神にも勝る上級の存在であり、その可愛さは何と比べられるものでもない。とんでもないバカな行動も愛嬌に映るぐらい可愛い。cawaii。

 

 昔、うちには先代の猫がいた。名前はジジ。俺が0歳のときにもらわれて、兄貴が名付けた。ジジと俺は同い年で、0歳の俺はジジを叩いて引っかかれたらしい。その傷は中学頃まで残っていた。小学生のころは追いかけまわして猫パンチを食らったりしたし、網戸を破り脱走を図ったこともあった。

 

 ある日、ジジは調子が悪くなって病院に通うようになった。もしかしたら死ぬかもしれないと言われて、泣いてしまったのを覚えている。でもその時は手術かなんかが上手くいって、普通に帰ってきた。中学は平和に卒業した。

 高校1年の時、ジジはおじいちゃんになったなあと思った。まったく餌を完食することが無くなり、寝る時間が増えた。膝にのせてもあまり動こうとはしなかった。なんだか急にはかないものに見えて、大事にした。

 

 高校2年の夏、東京に遊びに行って帰ってきた次の日、ジジは家の隅っこでじっとしていた。抱き上げて家の真ん中のソファに置き、駅におきっぱの自転車を取りに行った。

 帰ってくると、ジジは息を詰まらせていた。時折「カッ」というような音を発するだけで、まったく生きているようには見えなかった。いくらなんでも察した。こいつはもうすぐ死んでしまう。帰ってきた妹にそのことを伝え、怖くなって自分の部屋に逃げた。しばらくして母親が帰ってきて、おそらくはそのタイミングでジジは息を引き取った。

 

 目を閉じさせて、身体の固くなっていくジジをなでながら、埋葬の日取りとかを決めて、当日についていった。

 最後のお別れは、言えなかった。口を開けば泣いてしまうので。

 

 それから1年経ってから、居間から猫の鳴き声がするようになった。それがもも。

 最初は、ジジの傷も癒えてないのになんでって思ったけど、ある日ネットにある記事を目にした。

 

「猫は楽しかったことしか覚えていない」

 

 救われた気がした。ジジは楽しい記憶だけを持って天国で過ごしているのだと思うと、やっとジジにお別れを言えるような気がした。

 ならば俺は、ももとくりにも楽しい記憶をいっぱいあげようと思った。うざいぐらいに撫でて、逃げだすぐらい抱き上げて、飽きるぐらい遊んでやろうと思った。こいつらもいつかは、たぶん俺より先に死んでしまう。その時にたくさんの楽しい事を覚えてるように。

 

 俺が死んだときは、棺桶に猫じゃらしを入れといてくれ。天国でまた遊ぶから。