路地裏

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冨安健洋の適正価格を考える

 先日、セリエAの名門・ASローマからの興味が報じられた東京五輪世代のサッカー日本代表・冨安健洋(とみやす たけひろ)。ベルギーのシント=トロイデンで頭角を現し、セリエAの舞台へ駆け上がってからは本職ではない右サイドバックとしてチームに貢献する若武者は、まだ21歳であるという将来性も含め、強豪クラブへのステップアップが期待される逸材の1人だ。

 

 ボローニャで試合に出続け、トップレベルの舞台で経験を積んでいる冨安にローマを始めとする国内の有力クラブが興味を示すのはいわば当然の事だが、その成長速度には目を見張るものがある。しかしこの一件はボローニャのテクニカルディレクター、ワルテル・サバティーニが否定した。

「今夏は売りに出していないし、2500万ユーロ(約29億円)積まれても売らない。それ以上の価値がある」というのがサバティーニの主張だ。彼が言うには「冨安の価値は誰にも計れない」という事だ。その言葉通り、今夏の移籍は無しと考えていいだろう。

 

 しかしここで引っかかるのは、2500万ユーロ以上の価値というのは本当か、という事だ。たしかに将来性、チーム内での重要度などを考えればインフレ気味の移籍市場においてまったくバカげた金額とも言えず、実際トップレベルで何の実績もない逸材が3~4000万ユーロ(35億~46億円)で取引される光景は、メガクラブにおいてはさほど珍しい光景では無くなってきた。

 とはいえ冨安は欧州圏の人間ではないし、言語や生活などの適応も未知。ベルギーとイタリアで一定の結果を残しているとはいえどちらもプレッシャーの少ない中小クラブでの話で、さらに言えば冨安はディフェンダー。守備の選手はそのレベルに関わらず攻撃プレーヤーに比べると移籍金は低い。現時点で世界最高のセンターバック、フィルジル・ファン・ダイクも、リバプールが払った移籍金は8500万ユーロ(約107億円=当時)。チームへの貢献度で言えばメッシやC・ロナウドにも比肩する男でさえ、1億ユーロに満たない。

 

 インフレ気味の最近だと、フランスの世界一に貢献し、アトレティコでも結果を残したリュカ・エルナンデスはその若さも加味され8000万ユーロという高値がついた。とはいえ彼はアトレティコとフランス代表という強豪で結果を残している。いわば「保証書付き」と言ってもいい実績であり、冨安のような才能豊かな若者という括りではなく、「世界レベルの即戦力」としての括りだと考えた方がいい。

 他にはオランダ代表、マタイス・デリフトがアヤックスからユベントスに移籍した時には8550万ユーロ(約99億円)。デリフトは冨安よりさらに若く、現在20歳。欧州の舞台で大躍進を遂げた「ヤング・アヤックス」においてキャプテンを務め、チャンピオンズリーグベスト4まで進んだチームをまとめ上げた。彼もまた、若者離れしたパーソナリティー、図抜けた将来性、現時点での即戦力という多くの側面が価値を高めている。

またデリフトの場合は、争奪戦の過熱による移籍金の高騰もある。サッカー選手の移籍は争奪戦になった場合はオークションに似ており、当然払う金が多いクラブの方が獲得できる確率は上がる。ユーべは決して一番高い金を払ったわけではないが、当初提示した額からの上積みはもちろんある。

 

 彼ら世代のトップクラスに比べれば、冨安はそこに辿り着く可能性こそあれ現時点では足元にも及ばない。ローマは1000万ユーロを提示したとの情報もあるが、冨安を純粋に戦力として考えるなら高くてもその程度だろう。個人的には850~900万ほどではないかと思う。

 その一方で、本職がCBながら右SBをそつなくこなすポリバレント性、セリエA1年目からレギュラーポジションを勝ち取った適応力、何度も言うがまだ21歳という若さを考えると、1000万ユーロはあまりにも安い。

 

 個人的に、冨安の適正価格は1500~2000万ユーロほどだと考える。ボローニャとしても、その価格で冨安が希望すれば引き留めることはできないだろう。ボローニャのような中小クラブにとって、冨安のような若手は戦力であると同時に「商品」でもあるからだ。とはいえこれを下回る価格は突っぱねるだろう。あと1年で冨安がさらなる成長を遂げれば、この2倍以上の値段が付くことも十分あり得るからだ。

 

 日本の最終ラインを背負う存在、冨安健洋。願わくば、そのキャリアが正しい成長曲線を描きますよう。